鬼石坊主地獄のすぐ脇に、「鬼石の湯」という、新しくできたばかりの温泉施設があります。地獄の切符売り場と同じ場所で入浴料金を払い、雨が降り出したので傘を借りて、温泉へ。建物に土足で入ろうとしたところ、スタッフの"おじょうさん"が慌てて駆け寄って来て、「靴を脱いでくださいね」とやんわり注意されました。バリアフリーで段差が少ないため、靴を脱がなければいけないことに気づかなかったのです。建物は木造で、床の木目も清潔でいい雰囲気。これは汚しちゃいけない、と納得です。
あまり広くはないのですが清潔な脱衣所を抜けると、目の前に広い内湯が。濃い食塩泉で黄緑色をした温泉に浸かると、これが少し熱めで身体を程よく温めるんですね。関西から来たと思われる観光客が「こりゃ熱い、やっぱ別府やね」と言っていました。
続いて露天風呂へ。雨が降り始めたため人は少なく、内湯ほどではありませんが熱めの黄緑色の食塩泉を存分に味わいました。湯元から流れ出るお湯を飲んでみると、明らかに味がありました。単純にしょっぱいのではなく、何と言いますか、くず湯(または、とろみの少ない水溶き片栗粉)に塩を少し混ぜたような味でした。私は今回の温泉めぐりで、一つの温泉につき3分浸かると決めていたのですが、鬼石の湯にはかなり長い時間入ってしまいました。内湯に2回、外湯に2回、合計すると15分くらいでしょうか。
お風呂から上がり、売店でオレンジのシャーベットを買います。売店の"おじょうさん"に別府八湯温泉道のスタンプを押してもらいつつ、しばしおしゃべり。 「お兄ちゃん、随分まわったねぇ」 一応私は24歳ですが、子供っぽく見られています。 「どこから来たの?」 「普段は東京に住んでるんですけど、実家に帰って来ていまして」 「えー、実家どこ?」 「石垣です」 "おじょうさん"の応対が少し無邪気に。 「えーそうなん、私も石垣や、え、え、石垣のどこ? 何丁目?」 「○丁目です」 「あーそうなんや、私は○丁目やけん、ちょっと離れちょるなあ」 「でも、まるで隣保班ですねぇ」(注:家が近いことを表す) 一連の応対、どんなマニュアルにも載っていません。台本なんてもちろんありません。ファーストフード店やスーパーマーケットのように規格化されていません。すべてが初舞台、お客さんと楽しく語らいながらも真剣勝負。そんな、別府のあちこちで活躍する売店の"おじょうさん"が、温泉街の活気を支えているんです。ちなみに、私の母も、つい最近まではそんな"おじょうさん"でした。
||別府八湯
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